機織り

皆さまは、機織りをしたことがありますか?

機(はた)に座ると遺伝子の記憶が呼び覚まされるような喜びを感じます。
私たちの祖先は、寒さをしのぐための衣服や、収穫物を保存するための袋にするため、布を織りました。この布を織るために考え出されたのが、機です。

機械という字にこの機の字が使われているのは、日本人が初めて出合った機械が、この機だったから。私たち日本人が、もっとも古くから付き合ってきた機械、それが機なのです。

機は、何でできていますか? 字を見れば明らか。そう、木材で作られています。

今でこそ、近代的な機械化(?)の進んだ織機(しょっき)は金属製ですが、そんな現代でも伝統的な織物は、木製の機で織られているのです。また、機の字は、もともと経糸(たていと)が立木に固定されていたことを表す象形文字だとも言われています。

経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を織り込むことで布が織り上がるのですが・・・経(たて)の字と緯(よこ)の字を続けて書くと、「経緯(けいい)」になります。

経糸の話が少し横道にそれますが、この夏の大ヒット映画「踊る大捜査線」でも事件の経緯を探る刑事達の仕事ぶりが克明に描かれています。つまり、経糸が時間軸。その時間の流れの中で起こるさまざまな出来事、それが緯糸です。それを読みとることで、刑事達は犯人像に迫っていくわけです。

話を経糸に戻します。経(たて)の字の糸偏(いとへん)を彳(ぎょうにんべん)にかえてみると、「径(みち)」になります。

機に座ると、まさに経糸が径(みち)のようにまっすぐに伸びていることが、おわかりいただけると思います。この経の旧漢字が「經」。經の字が、機に張られた経糸を表した象形文字だということがわかっていただけますでしょうか?

織機に張られた経糸に緯糸を渡すために考え出されたのが、「杼(ひ)」。英語では、シャトルと呼ばれます。

まっすぐに伸びた経糸の左右を行ったり来たりする杼(ひ)。駅と病院を結ぶシャトルバス。地球と宇宙を結ぶスペースシャトル。最先端の乗り物の呼び名が、機織りをルーツにしているなんて、ちょっと痛快じゃありませんか! さらにこの杼(ひ)の形、スペースシャトルにそっくりなんです。あっ、スペースシャトルの方が、真似したんでしたねぇ~。

さてさて、杼(ひ)で渡した緯糸(よこいと)を、しっかりと経糸(たていと)に打ち込むのが「筬(おさ)」の役目です。昔は、きっと竹でできていたんでしょうね。
櫛の歯のような形状の筬。その歯のひとつひとつに経糸が几帳面に一本一本通されています。

今では、金属製の筬が、トントンと軽快な音を立てています。緯糸を渡す杼には、車が付けられ、カラリと経糸の間をくぐり抜けます。そこで、トンカラリ・・・。トントンカラリ、トンカラリという機織りの音の描写は、ここから生まれたのです。

杼(ひ)、筬(おさ)と並んで重要な役割を担うのが、「綜絖(そうこう)」です。この綜絖が無数に張られた経糸の上げ下げを指示するのです。経糸を一本置きに上げ下げして緯糸を織り込むと、一番単純な「平織り(ひらおり)」という織物になります。

平織りだからって、バカにしてはいけません。伝統織物の代表格、大島紬も結城紬もこの平織りで織られているんですから。この結城紬は、地機(じばた)と呼ばれるもっとも原始的な織機で、今もなを織り続けられています。

漢字のおさらいをしましょう。

  • 機(はた)
  • 経糸(たていと)
  • 緯糸(よこいと)
  • 杼(ひ)=シャトル
  • 筬(おさ)
  • 綜絖(そうこう)

難しい漢字が並びました。どこかで機織り機に出合ったとき、覚えていれば「へぇ~」の嵐、間違いなしですッ!
生活の思わぬところに、この機織りがルーツになっている言葉が、まだまだあります。そんな言葉を探すのも、おもしろいかもしれませんね。