紬・お召し(想い出キモノ館)

尾下理恵さんの想い出

母がこの本結城を買い求めたのは、今から15年以上も前のこと。「あー、いい色で素朴な手触りやね」と、二人でたとう紙を広げた日のことは、よく覚えています。そして「お父さんには内緒にしといてや」という母の一言も。

母は質素な専業主婦で、お洒落をすることに執着するタイプの人間ではありませんでした。でも、サラリーマンの父にはとうとう内緒で、支払いを続けていたようです。娘を育て上げた、その時の母にとってこの買い物は自分自身への最大のご褒美だったのでしょう。

しかし何を思ったか昨年の秋、母は私にそれをポン!と譲ってくれたのです。「あんたの寸法に合わせてちゃんと仕立て直ししてあるから」と、電話口でちょっとぶっきらぼうな口調で言って・・・。

浅草、そして鎌倉へと、この本結城を着て私は出掛けました。その度に母の愛情をほっこりとまとった気がして、とても幸せなひとときを過ごすことが出来ました。きものは、単なる「もの」として伝わるのではなく、送り手の「こころ」として伝わるのです。

関西に一人で住む母は、もう72才。そして・・・
母がこの本結城に自ら袖を通したことは、ただの一度もありませんでした。

館長からのメッセージ

同じ女性として共感できる年齢になった尾下さんへの、ご褒美だったのかも・・・ね。

「紬・お召し」のお名前インデックスに戻る

ページの先頭へ戻る