伊那紬

長野県駒ヶ根市。
新宿から高速バスに揺られること、3時間半。澄んだ空気と透明な青い空、雪をいただいた山並みが、私たちを迎えてくれました。

駒ヶ根の街から望む南アルプス。
左は仙丈岳。そして、中央奥が富士山に次ぐ標高を誇る北岳です。中央アルプスと南アルプスの間に深く刻まれた伊那谷。天竜川の上流部でもあります。

久保田織染工業(株)社長で伝統工芸士でもある久保田治秀さん。
温かな語り口から長野県人のまじめな人柄を感じました。

糸繰り。
製糸会社から納められる「かせ」の状態の糸をボビンに巻き取っていきます。より良い糸を作りだすための最初の工程なのです。

合糸。伊那紬の特徴のひとつでもある糸づくり。
生糸や玉糸、真綿から手紡ぎされた紬糸が、目的に合わせて、撚り合わされていきます。
このあと、ふたたび「かせ」の状態に戻す「揚返し」、余分なタンパク質を落とす「精錬」などの工程を経て、染色がおこなわれます。

染材。
信州の山から切り出された原木の樹皮を染料として艶やかな織物が生まれます。1キログラムの糸を染めるのに同量1キログラムの染材が必要なのです。

染色。
樹皮から煮出された染液で糸を染める「かせ糸染色機」。これによって短時間に多くの糸が染められるようになりました。

「草木で染めた糸は、どんな色同士で織っても喧嘩することがないんです」
そう語りながら、愛おしそうに糸を撫でる久保田さん。

整経。
様々な色糸のボビンが並べられ、整経機に経糸を巻き取っていきます。一度に巻き取れるのは、108本。1反の経糸をつくるのに10回以上同じことを繰り返す、根気のいる作業なのです。

経(たて)つぎ。経糸(たていと)を機(はた)にかける作業。
それまで織っていた反物の経糸が機に残こしているため、その端に新しい経糸をつないでいきます。1000本を越える経糸すべてを手作業でつなぐのに5~6時間を要します。気の遠くなるような作業ですが、これによって綜絖(そうこう)や筬(おさ)に一本一本、経糸を通していく手間が省けるのです。

手織り。伊那紬は、高機(たかはた)を使って手織りされます。
4枚綜絖(そうこう)の機で織られる花織り。織り手自身の感性で、ロマンチックな柄が表現されていきます。

伊那紬の代表柄、格子。規則的な柄だけに間違いは許されません。手織りの職人さんは、20人ほど。すべて女性なのです。

古くから「蚕の国」「絹の国」と呼ばれていた信州伊那地方。草木染の原料になる草木に恵まれています。多彩な糸の組み合わせと色調豊かな草木染めが伊那紬の特徴です。大地の恵を今も丹念に織り続ける、それが伊那紬なのです。